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「繁体字」と「簡体字」の違いから見る「チャイナ・リスク」

2010.11.05

調査/分析 歐陽 宇亮(株式会社ラユニオン・パブリケーションズ)

 

9月の漁船衝突事件以降、日中関係の険悪化に伴う一連の不穏な動きを見て、冷や冷やする人も多いかと思う。ここで改めて浮上したのは、「チャイナ・リスク」という概念だ。チャイナ・リスク(China risk)とは、中国関連のビジネスを行う際の危険性を意味する単語だが、特に日本企業の場合は反日感情の高まりによって生じる暴動や不買運動を指すことが多い。今回は、チャイナ・リスクについて考えていきたい。

  

チャイナ・リスクを語る前に、まず「チャイナ」の意味について考えなければならない。というのも、日本人の言う「チャイナ」(中国、中華)は、実は定義が非常にあいまいなものだと私は思う。いわゆる広義の「チャイナ」には、共産主義の政治・社会制度を採用した中国本土だけではなく、台湾や香港といった中国語圏全体が含まれる。正確には、その「チャイナ」は大中華圏(Greater China)という。日本では、省略して中華圏とも呼ぶ。

  

一つの固まりとしての「中華圏」という概念と比較して、中華圏のなかにあるそれぞれの地域は相対的に独立している。共産中国の他に、台湾島と周辺島嶼からなる「台湾」や160年にわたって英国植民地だった「香港」、ポルトガル領だった「マカオ」がある。台湾や香港、マカオを除いた共産中国は、中国大陸(Mainland China)と呼ばれる。日本では、中国本土という言い方も使われる。

  

ここで要注意なのは、中国大陸とその他の地域の使う「中国語」が違うということだ。ご存知の方も多いと思うが、大陸では簡略化した「簡体字」、そして香港や台湾では日本語漢字の旧字体に相当する「繁体字」が使用される。単刀直入に言えば、簡体字の使用地域と繁体字の使用地域の境界線は、「チャイナ・リスク」を考える際の重要な境界線でもあるのだ。

  

そもそも中国語は本来、繁体字と簡体字の違いがなく、中国政府が数十年前に教育目的で字体を省略化したのは簡体字である。その政策が及ばない地域では、従来の字体=繁体字を使っている。つまり、簡体字の使用地域というのは、教育を始め、あらゆる政治的・社会的・経済的政策が、中国政府の直接の指導下にある地域だということだ。日本から見ると、繁体字圏の香港・台湾も簡体字圏の中国大陸も同じようなものに見えてしまうかもしれないが、実際は巨大な違いがある。

  

繁体字圏と簡体字圏は、様々な意味において決定的な差異を示しているが、ここで注目したいのは対日感情の巨大な温度差である。チャイナ・リスクで記憶に新しいのは、9月の漁船衝突事件以降、中国人観光客が大量に来日をキャンセルして、宿泊業界をはじめ、日本の観光業が多大な打撃を受けたということだ。ところが、ここでいう「中国人観光客」は、実は100%中国大陸の観光客である。もともと親日性の高く、訪日観光市場が高度に成熟した繁体字圏では、観光客が事件以降も減少していない。

  

象徴的な出来事は、国土交通省が中心となって、官民一体で行っている外国人旅行者の訪日促進活動、VJC(ビジット・ジャパン・キャンペーン)の香港向けキャンペーンである。2010年後期(秋冬)の香港向けVJCは、まさに日中関係が悪化している最中の10月11日から展開された。私もVJC香港の仕事をお手伝いしているが、当初は日本人の間でタイミングの悪さを危惧する意見もあった。また、円高というネガティブな要因もある。ただし、蓋を開けてみれば、キャンペーンが早くも異様な熱気に包まれたのである。

  

VJC香港は、香港で人気のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でファンページを開設したが、わずか一週間でファンの人数が6,000人を突破した。香港の総人口(700万)から考えると、これは香港の公式観光機関(香港政府観光局)が、日本のSNS(たとえばmixi)で香港旅行のキャンペーンを行ったら、一週間で日本人参加者が10万人を突破したという程度の勢いである。ファンの人たちは、中国語(繁体字)と英語だけではなく、日本語まで駆使して、毎日たくさんの熱烈な書き込みをしており、日本に対する惜しみない愛情をさらけ出している。

  

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香港の人気SNS「Facebook」で開設されたVJC香港のファンページ

現地で宣伝攻勢を展開する前に、あっという間にファン人数が6,000人を超えたものだから、キャンペーンに関わっている人たちも度肝を抜かれた感じで、驚きながら喜んでいた。もちろん、香港出身の私は、最初からキャンペーンの成功を確信していた。香港や台湾といった繁体字圏は、世界でも有数の親日地域であり、日本に対する親しみは、もはや現地の市民文化の根本的な構成要素となっている。香港や台湾の街を歩き、店に入ってみれば、現地の人たちがどれだけ日本が好きなのかがよく分かると思う。大胆に言えば、「日本」がなければ、いまの「香港」や「台湾」もないのだ。

  

従来、チャイナ・リスクに対し、不利な事態が発生した際に損失を最小限に抑えておく「チャイナ・プラス・ワン」という手法がある。中国関連のビジネスをしながら、並行して他の国に関しても一定規模のビジネスを行い、リスクを分散するという考えだ。たとえば製造業においては、近年タイやベトナムへの投資が増えている。ところが、観光に関して言えば、実は「チャイナ」以外の国だけではなく、「チャイナ」のなかでも繁体字圏という「もう一つの中国」によって、「チャイナ・プラス・ワン」の効果が十分達成できるのだ。

  

「まいど!中国」は、繁体字圏、簡体字圏両方の人材とノウハウをもつプロの集団として、中国大陸のみならず、「もう一つの中国」である台湾や香港に関してもサービスを提供しており、好評を頂いている。「まいど!中国」の「中国」は、狭義の中国=中国大陸だけではなく、香港や台湾といった繁体字圏を含んだ広義の中国である。一時的な落ち込みはともかく、大局的に訪日観光市場が伸びていくことが必至の中国大陸。そして訪日観光市場が十分に成熟し、頼みの綱になってくれる香港や台湾。ぜひわれわれと一緒に、「チャイナ・プラス・ワン」も含めた真の「まいど!中国」を実現してみませんか?

  

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